作成日:2024/02/17
歩合給のメリットについて。
タクシー配車アプリの認知率は、53.9%
利用したことがある率は、11.6%
「タクシー配車アプリの利用シーンで最も多かったのは「旅行や観光先での移動時」の32.3%で、「仕事中の移動」が30.3%で続いた(データ3)。利用頻度については、「年に数回程度」が42.4%と最も多かった(データ4)。月に1回以上利用している人は41.0%に上った。」
(以上、株式会社MM総研プレスリリースより引用)
https://www.m2ri.jp/release/detail.html?id=595#:~:text=%E3%82%BF%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%BC%E9%85%8D%E8%BB%8A%E3%82%A2%E3%83%97%E3%83%AA%E3%81%AE%E5%88%A9%E7%94%A8,41.0%25%E3%81%AB%E4%B8%8A%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%80%82
歩合給と言えば、タクシードライバーの給与のイメージが真っ先に思い浮かぶ方も多いと思います。
例えば、ある電鉄系のタクシードライバーの求人によると、「基本給18万円強+歩合給+賞与年3回 平均月収例35万円強」、電鉄系ではない大手グループの場合、「基本給18万円弱+歩合給+賞与 乗務開始から最長1年間は38万円の給与保障制度あり」という求人広告を目にします。
広告に踊る数字は、なかなか魅力的な額です。年金だけでは生活が難しい高齢者にとっては特にメリットを感じると思います。
給与の構成は、やはり「歩合給」が大きな割合を占めます。
その日乗せたお客様の事を「水揚げ」なんて業界内では表現しますが、ドライバー目線のイメージとしてはよく表しているでしょう。
この「歩合給」の狙いとしては、日ごとのお客様の数や距離が常に変動するという特性、またドライバーのやる気を促す狙いからのものと想像します。そういう意味では合理的と言えるでしょう。
ここで、冒頭に挙げた配車アプリを考慮すると、上記の「日ごとのお客様の数や距離が常に変動する」という要素がこれまでと変化してくるのではないかと思います。
アプリですから、「いつ、どこで、どんな、どれだけの数のお客様が乗車して、どこで降りたのか、次はいつどこで乗車してどこで降りたのか」といった履歴が残ります。なんなら、その日の天気や気温だって加味したデータも取れるでしょう。
そこにAIが乗っかってくれば、これまで暗黙知とされてきたものがたちまち形式知になり、それをいかに活用するか、がドライバーの腕の見せ所になってくるはずです。
そうすると、上記でもう一つ述べた「ドライバーのやる気」の方向性も変化するはずです。いわゆる「流し」で走りながら目を光らせてタイミングよくお客様を乗せるという職人技から、データに基づいた行動と乗車前後の応対品質、そして安全運転ということにやる気を向けなければなりません。
それから、アプリとも関わりが深くなるのが外国人の乗客への対応です。友人の振りをして同国人を乗車させる「白タク」が横行しているようですが、こうしたことでお客様を取られてしまうと「歩合給」の不安定さが露呈してしまいます。これはこれで対策をする必要があります(国の役割ですが)。
以上は、歩合給にすることの効果を現代的に上げるための考察ですが、タクシードライバーの人手不足、特に若者のドライバーが少ない理由と歩合給とがどのように関係するのかについて少し考えてみます。
歩合給の良さの一つは、なんといっても
「わかりやすい」ことです。給与というのは、どうしても払う側(使用者)の恣意が働いてしまうことも多いものです。
払う側として、最低賃金などどうしようもない点以外は裁量で払いたいという気持ちは理解できます。そのため、「基本給」部分については制度に基づく昇降給あるいは”鉛筆なめなめ”的な変動はあり得ます。
しかし、「歩合給」部分については計算式がちゃんとありますので、従業員でも簡単に試算できます。
この
「わかりやすさ」は年齢を問わず魅力的だと思います。特に、今のように何でもスマホで調べられるお手軽さに慣れ切った若者にとっては、「わかりにくいもの」ほど嫌なもの、コスパ・タイパの悪いものと感じることは想像に難くありません。
そうすると、タクシードライバーのような「歩合給」の割合が高い仕事はむしろ魅力的に映りそうなものですが、もっと魅力的なものが世の中にはあります。
それが、「完全歩合」です。
私は、若者がなぜ委託のフードデリバリーや宅配ドライバーに従事するのか、常々不思議に思っていました。
タクシードライバーの給与と比較してみて、その理由の一つがこの完全歩合の
「わかりやすさ」にあるのではないかと思い至りました。
もちろん、服装や髪形が自由とか、誰の命令も受けないということもメリットでしょう。しかし、これらも
「わかりやすさ」として共通している要素です。
何が良くて何が良くないのか、を自分で決められることほどわかりやすいことはないでしょう。
では、タクシー会社も完全歩合制を導入すればいいかと言うと、そう簡単なことではありません。
労働基準法(出来高払制の保障給)第二十七条 出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。
この条文から、完全歩合給といっても事実上、委託と全く同じ形を採ることはできません。また、正社員で雇用していることがほとんどなので、年齢などのライフステージごとの考慮要素(例:家族手当)も絡んできます。
こうしたことから、完全ジョブ型とでもいうような形式、つまり委託と同じような賃金制度は難しいのではないかと思います。
もちろん、雇用であることこそのメリット(社会保険料は折半、資格取得は会社負担等)は多いですが、まだ扶養家族がいないような若者としてはそうした点のメリットは感じにくいところもあるでしょう。
以上のような点を考慮しながらタクシードライバーの人手不足の対策を考えると、例えば「いっそ若者を雇用することは諦める」ということも立派な方針と思います。
また、ある運送会社では雇用のほうが良いことに気づいた若者が転職してくるという話を聞いたことがあります。
こうしたことをみると、求人においては「雇用であることのメリット」をもっと伝えるようにした方がいいのではないかという気もしてきます。
労働・社会保険の仕組みは複雑なところもあり限られた誌面・時間では難しいところもあるものの、チャレンジしてみる価値はあるのではないかというのが、以上のような考察と社労士の視点をふまえて、改めて感じるところです。
また、アプリでその日の売り上げの変動性が昔よりも小さくなった部分は基本給にもっていくような方法も有効ではないかと考えます。
基本給が高いことは働く側の安心に繋がります。
それでも変動性はもたせたいというのが払う側の気持ちでしょうから、そこは賞与や退職金でもたせることは可能です。
賃上げも大事ですが、時代に合った賃金の構成はもっと大事だというのは以上の考察から言えると思いますので、額と構成の両面から考えることで人手不足対策にも資する賃金に生まれ変わるでしょう。