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社労士の視点
作成日:2024/01/28
固定残業代はなんのため?

今日は日曜日なので、朝刊に求人広告が折り込まれています。

その中で、気になった広告がありました。

「配車管理事務員 月給33万円以上(基本給+各種一律手当(時間外手当40h相当含/6万円)※超過分は別途支給」

これに加えて、「昇給有・賞与年2回(中略)試用期間3ヶ月有(日給11,000円)」

なお、これは近畿の運送会社(仮にA社)の求人です。

ここでは「各種一律手当(時間外手当40h相当含/6万円)」に注目します。

この部分はいわゆる「固定残業代」と呼ばれるもので、

そのこと自体、違法でも何でもなく

「事業主の裁量」の範囲です。

ただし、

時々裁判で違法性が指摘され、

これが丸々固定給として扱われてしまう例が多いため、

そうならないように制度設計したり運用することが大切です。

適法な固定残業代となるための要件について、厚生労働省が下記のように通達しています。
少々長いですが引用します。(下線、太字は弊所が追加)

「労働基準法第37条が時間外労働等について割増賃金を支払うことを使用者に義務づけていることには、時間外労働を抑制し、労働時間に関する同法の規定を遵守させる目的があることから、時間外労働等に対する割増賃金を基本給や諸手当にあらかじめ含めて支払っている場合には、上記1を踏まえ、次のことに留意する必要があること。

(1) 基本賃金等の金額が労働者に明示されていることを前提に、例えば、時間外労働、休日労働及び深夜労働に対する割増賃金に当たる部分について、相当する時間外労働等の時間数又は金額を書面等で明示するなどして、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを明確に区別できるようにしているか確認すること。

(2) 割増賃金に当たる部分の金額が、実際の時間外労働等の時間に応じた割増賃金の額を下回る場合には、その差額を追加して所定の賃金支払日に支払わなければならない。そのため、使用者が「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日付け基発0120第3号)を遵守し、労働時間を適正に把握しているか確認すること。

時間外労働等に対する割増賃金の適切な支払いのための留意事項について
(平成29年7月31日)(基監発0731第1号)(都道府県労働基準部長あて厚生労働省労働基準局監督課長通知)

https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc6481&dataType=1&pageNo=1

上記の内容を要約して、

「明確区分性(判別可能性)」
「対価性」

の2つの要件を備えてはじめて、適法な固定残業代となるとされています。

また、同じく厚生労働省は、職業紹介事業者に向けて下記のように広報しています。

(以下、引用)
「固定残業代制を採用する場合は、募集要項や求人票などに、次の@〜Bの内容すべてを明示してください。

(中略)

@ 固定残業代を除いた基本給の額

A 固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法

B 固定残業時間を超える時間外労働、休日労働および深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨

▶ 時間外労働について固定残業代制を採用している場合の記載例

@ 基本給(××円)(Aの手当を除く額)

A □□手当(時間外労働の有無にかかわらず、○時間分の時間外手当

B ○時間を超える時間外労働分についての割増賃金は追加で支給
※「□□」には、固定残業代に該当する手当の名称を記載します。
※「□□手当」に固定残業代以外の手当を含む場合には、固定残業代分を分けて記載してください。
※ 深夜労働や休日労働について固定残業代制を採用する場合も、同様の記載が必要です。
 

長々と引用してきましたが、

これらを踏まえると、

求人広告は厚生労働省の広報にしたがって表記していることが分かりますね。

次は、A社の賃金を分解してみます。

試用期間が日給11,000円とされているので、

毎月平均の労働日数を22日(運送会社なので1日多めにみています)とすると、

基本給は242,000円/月

ここに、

毎月平均残業時間が40時間、

1日の所定労働時間が法定労働時間の上限(8時間)と同様とすると、

時給が1,375円(11,000÷8)なので、68,750円/月がプラス。

通勤手当が仮に車通勤かつ非課税枠内いっぱいなら、7,100円/月

(10km以上~15km未満、今日現在の国税庁公表値)とすると、
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2585.htm

試用期間中の月給=242,000円+68,750円+7,100円=317,850円
(税金・社会保険控除後の手取りが85%とすると、27万円ほど)

試用期間後の本採用が33万円以上と広告されているので、

こんなものかなというところですね。

本採用後に始めて支給される手当というと、

たいていは家族手当(33万円にするなら、家族手当12,000円ほど)でしょうから、

基本給は変わらないでしょう。

広告には「賞与年2回」とありますので、

年間で基本給242,000円の2か月分とすると、484,000円/年。

月給と併せると、年収は、

(33万円×12か月)+賞与の合計484,000円=4,444,000円/年
(手取りは、85%とすると3,777,400円)

ということが想像できます。

これ以上貰いたければ、

深夜や休日労働をしたり、

昇給できるように仕事をしなければなりません(出世?勤続?)。

どうでしょうか。

求人広告一つで、

その会社の賃金の中身が想像できてしまいます。

面白いですね。

さて、最初に注目した「固定残業代」ですが、

仮に、このA社が固定残業代を採用しておらず、

求人広告に基本給だけ(24万円)をうたった場合、

広告への反応はどうなるでしょうか?

当然、「33万円以上」より反応は鈍くなるでしょう。

今でこそ、

国が固定残業代の広告での表記にまで規制をかけていますが、

昔はそこまでの規制はなく、

「33万円以上(残業代込)」

のようなものが一般的でした。

そうすると、

固定残業代を採用するメリットとして、

「求人の反応を良くするため」

というものが考えられます。

また、

昔はエクセルもない時代だったので、

「毎月の給与計算を簡単にするため」

というメリットもあったでしょう。

それらに加えて、

固定残業代の採用は裁量の範囲なので、

国の規制も直接には及ばなかったため、

「固定残業代さえ支給すればいい」

というような、

意図的な悪用や思い込みもあったでしょう。

悪用や勘違いは論外として、

今の給与計算は、

システムを上手に利用すれば効率化は可能であり、

見た目だけ給与額を大きく見せても、

固定残業代の表記はきちっとしなければ、

広告さえできません。

ましてや、

固定残業代の運用が適法でないと、

裁判で無効とされるリスクまで負うことになります。

加えて、

固定残業代でカバーする残業時間が多ければ多いほど、

求職者(特に若者)からのイメージが悪くなります。

もちろん、

業種・業態の特性上、

残業(法定時間外労働)が多くなることが避けられないこともあります。

しかし、

そのことと固定残業代を採用することはイコールではないですね。

求人上のメリットや、給与計算上のメリットが乏しい時代に、

固定残業代を続けることのメリットを、今一度考えてみることが必要です。

そのためには、経営戦略と労働時間をリンクさせて考えることがポイントです。

どうしても、残業してもらわなければ、時には深夜や休日に働いてもらわなければならないのならば、

それを会社の業績UPに繋がるような、戦略的な働き方として捉える方がプラスになります。

もちろん、

過労死を防ぐために

「週労働時間が60時間以上の労働者を無くすよう努める」

ことを国が広報しているので、
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/karoushizero/index.html

天井(上記の場合、週の時間外・休日労働は20時間まで)を意識しつつではありますが、

単に「お客の要求だから」などの受け身の残業ではなく、

「経営戦略上、必要な労働時間」

として捉えることができれば、

経営者も従業員も納得して働けるのではないでしょうか。

そうした考え方をベースにした「固定残業代」なら、

堂々と求人広告にうたっていいのではないかと考えます。